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テーマを絞った随筆(エッセイ)集です

ルー・フィン・チャウ 2003/12/28
 先日、「養老の滝」で仲間と飲んでいたら、どういう話の流れだったのか、その記憶は定 かでないが、「ルー・フィン・チャウ」の話題になった。「ルー・フィン・チャウ」はベトナム出身 のアイドル歌手。今から20年以上も前の話である。別に海外出身のアイドルは珍しくはな いが、「養老」での仲間たちは、彼女の特別な境遇を知っているからこそ、今更話題に挙 げるほどの記憶を留めていたのだろう。
 「ルー・フィン・チャウ」はベトナム難民。祖国を捨てて、ボートで日本にやって来た。その 後、神奈川県大和市の難民定住施設でスターを夢見る。デビューのキッカケは文字通り、 オーディション番組の「スター誕生」だった。彼女の歌手としてのデビューは、小泉今日子 や中森明菜のデビューと前後した記憶が私の心の片隅には残っている。難民という境遇 でのスター挑戦劇は、当時世間に共感を与えた。晴れてオーディションに合格、与えられ たデビュー曲は谷村新司の作った。その名も「スター誕生」。
 今となっては、彼女の歌も顔の記憶も残っていない。彼女の名前と境遇は覚えていても である。ただ、その当時、毎日のように日本にやって来る大量のベトナム難民の様子は覚 えている。サイゴンが陥落し、祖国を捨てざるを得なかった南ベトナムの人々である。
 そんなサイゴン(現・ホーチミン)を私が訪れたのは去年のこと。先進の国々に比べれ ば、まだまだ発展は遅れているものの、街や通りは活気に満ちていた。インフレは経済成 長のスピードに追いつけない。やがて硬貨の流通が止まった所以でもある。法外な外国 人料金を請求されて、タクシーの運転手と喧嘩した自分が恥ずかしくなった。長い復興期 間に苦労してきた彼らの言い分の方が、遥かに説得力はあったからだ。
 「養老の滝」での話題がキッカケで、ベトナムの旅を思い出してしまった。「ルー・フィン・ チャウ」も今は祖国に帰っているのだろうか。




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